「体重は落ちているのに握力が弱くなった気がする」「痩せ薬(GLP-1受容体作動薬)で減量すると筋肉まで失うと聞いて不安」——セマグルチドなどのGLP-1薬を使う社会人が急増する中、こうした声をよく聞く。忙しくてジムに通う時間が限られているからこそ、薬の効果と筋肉のリスクを正しく知っておきたい。2025〜2026年発表の最新研究3本が、この疑問に具体的な答えを出している。
結論
GLP-1薬による減量では体重の一部として筋肉量(除脂肪量)も落ちるが、その減少幅は体重減少にほぼ比例する程度であり、握力などの「使える筋力」はむしろ維持・改善するケースが多い。筋肉を守る鍵は薬そのものではなく、タンパク質摂取と筋トレの継続だ。自分の行動を止めないことが最大の防御線になる。
研究① 筋肉量は「保たれる」、筋力低下の証拠なし
Iorraら(2026年4月, Liver International, PMID: 41999054)は、GLP-1薬と筋肉に関する12研究・810人分のデータを統合したシステマティックレビューを実施した。11研究(785人)で筋肉量を評価した結果、減少は総じて体重減少に比例する範囲にとどまり、極端な喪失は確認されなかった。さらに3研究(477人)で握力やスクワット動作(sit-to-stand)を用いた筋力評価を行ったが、有意な機能低下のエビデンスはなかった。「痩せる=筋力が落ちる」は必ずしも成立しない。
研究② 除脂肪量は一時的に減っても、握力はむしろ伸びる
Alissouら(2026年, Diabetes Obes Metab, PMID: 41068996)による「SEMALEAN試験」は、肥満患者106人を対象にセマグルチド2.4mgを12ヶ月投与した前向き研究だ。体重は7ヶ月で10%、12ヶ月で13%減少。除脂肪量(筋肉を含む)は7ヶ月時点で3kg減ったが、その後は安定した。注目すべきは握力で、12ヶ月時点で平均+4.5kg改善し、サルコペニア肥満(筋肉減少を伴う肥満)の割合は49%から33%へ大きく低下した。数字上の筋肉量が減っても、実際に使える筋力は鍛え方次第で伸ばせることを示している。
研究③ 除脂肪量減少の正体と、防ぐための条件
2025年のActa Diabetologica誌に掲載されたレビュー(PMID: 41201615)は、GLP-1薬による体重減少のうち約20〜30%が除脂肪量(筋肉・水分など)であると報告した。リスクを高める要因として、高齢、急激・大幅な体重減少、タンパク質摂取不足、座りがちな生活、腎疾患や糖尿病の既往を挙げている。逆に言えば、これらは調整可能な要素であり、十分なタンパク質摂取とレジスタンストレーニングの継続が、筋肉を守る統合的な管理戦略として推奨されている。
今日からやること
- 体重×1.2〜1.6gのタンパク質を毎日確保する(体重70kgなら84〜112g)
- 週2回以上、全身の主要筋群を鍛えるレジスタンストレーニングを継続する
- 極端な減量ペース(月に体重の5%超)を避け、緩やかな減量を選ぶ
- 握力や階段の上りやすさなど「使える筋力」を定期的にセルフチェックする
- GLP-1薬を使っていても「運動は不要」と思い込まない
注意点
今回紹介した研究は肥満症や脂肪肝など特定の対象者を含むものが多く、健康な標準体重のトレーニーにそのまま当てはまるとは限らない。SEMALEAN試験は観察研究であり、握力改善が薬の直接効果か減量後の活動量増加によるものかは切り分けられていない。GLP-1薬の使用や休薬は必ず医師の指導のもとで判断すること。
理想のからだを、知識で。
薬は敵でも魔法でもない。筋肉を守るかどうかを最終的に決めるのは、タンパク質と筋トレを止めない自分自身の行動だ。
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**参考文献**
- Iorra F et al. *Liver Int.* 2026 Apr 17;46(5):e70643. PMID: [41999054](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41999054/)
- Alissou M et al. *Diabetes Obes Metab.* 2026. PMID: [41068996](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41068996/)
- Acta Diabetologica. 2025. “Muscle loss and GLP-1R agonists use.” PMID: [41201615](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41201615/)

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